普賢院本尊の愛染明王④

昨日は「明王の存在感」について

投稿しましたが

インパクトあるお姿には

深いお諭しが込められています。

 

様々なみ教えが託されますが

愛染明王は煩悩即菩提

不動明王は生死即涅槃

を象徴するともいわれます。

 

前回までは

専門的な辞書を引いて

関連事項について紹介をしましたが

今回は『西国愛染十二霊場巡礼』

(西国愛染霊場会編・朱鷺書房・2021年)

を参考に愛染明王の十二誓願を紹介します。

 

なお以下の文言は

引用元の文章を尊重しつつ

語尾を改めた箇所があります。

 

一、智慧の弓方便の矢を以って愛敬を与え幸福を授ける

二、悪心を加持して善果を得せしめる

三、三毒の煩悩を摧破して浄心を起こす

四、諸の邪見・驕慢の心を離れて正見に住せしめる

五、諸人との闘争の縁を断って一生平和に送らせる

六、諸の病苦と天災の難を去って天寿を全うさせる

七、貧弱飢渇の苦を除いて無量の福徳を与える

八、悪鬼邪神の厄を払うて安穏快楽ならしめる

九、子孫繁栄と家運増長を守って復縁を断たせない

十、前世の悪行の報を清めて後生は浄土に生まれしむ

十一、女人には愛を与えて良縁を結ばしめ善児を授ける

十二、女人には臨産の苦を免れしめ所生子には福徳愛敬を授ける

 

誓願はみ教えに通じているものであり

尊格に託された願いでもあります。

 

以上の誓願が

いずれの経典のどの箇所に

典拠を持つものであるかは

調べる余地があるものの

愛染明王十二誓願は

広く共有されているようなので

今回紹介させていただきました。

 

こういった具体的な誓願と

愛染明王の特徴的な各所の造形を

照らし合わせながら

紐解いていくことは

とても有意義なことであり

よりご縁をお結びいただく

方便だと思います。

 

それはまた

機会を改めて

書いてみたいと思います。

 

つづく

 

普賢院本尊の愛染明王③

各お寺の本尊と呼ばれる尊格(仏様)は

そのお寺の中心となるもので

とても重要な意味を持ちます。

 

普賢院の場合は

愛染明王が諸仏中において

最も重要な意味が託されています。

 

真言宗の本尊は大日如来という

色々な意味で

とんでもないスケールの尊格で

諸尊のみならず森羅万象の

本質や本地であると捉えます。

 

尊格でいえば

愛染明王も不動明王も観音菩薩も

大日如来の応身(おうじん)つまり

お姿のひとつのあり方であり

弁財天や大黒天などの諸天も諸神も

しかりというわけです。

 

木の幹と枝の関係で例えると

幹が大日如来で

枝が諸尊ともいえます。

 

こうした考え方は

真言宗でとても重要な曼荼羅(まんだら)を

理解するために欠かせないものです。

 

根本を同じくしながらも

諸尊はそれぞれ特徴的なお姿をしており

その違いは強調される御教えによるといえます。

 

根本的な意味を持ちながら

諸尊の差異により

一層躍動的に御教えを示すような

イメージを拙僧は抱いています。

 

大日如来が宿す御教えは

あらゆる諸尊にも通じている

といった方が分かりやすいかもしれません。

 

愛染明王には具体的に

どのような御教えが

託されているのかを

前回も引用した文章を

手がかりに見てみたいと思います。

 

今回は

下記1の赤い部分について

ご紹介いたします。

 

  1. 梵語羅誐(らぎゃ)は彩色・赤色・情欲等の義なり、故にその愛欲染着(あいよくせんじゃく)の義を取りて愛染王または染愛王という。この尊は愛欲貪染をそのまま浄菩提心とする三昧にして、瑜祇経(ゆぎきょう、金剛峯楼閣一切瑜伽瑜祇経のこと)を本軌とす。(中略)衆生の本有倶生(ほんぬぐしょう)の欲染(よくせん)を直に浄菩提心の金剛薩埵(こんごうさった)の染愛三昧の化身とし、これを愛染明王とす。

  2. また金剛王秘密儀軌にこの尊の真言を説きて金剛王の真言とせり。王に鉤召(こうしょう)の徳ありて海内の民みな王に帰するが如く、愛染よく衆生を鉤召するが故に愛染王と名づけ、金剛王菩薩の化身とす。

  3. また菩薩の大悲は衆生を愛念したまうこと世間の恩愛の如く、この尊は敬愛の三昧にして、衆生をして仏の妙法を愛着せしめ、煩悩即菩提の理に入らしむ、これ金剛愛菩薩の化身なりとす。

  4. ただし金剛王菩薩とは、金剛薩埵の異名なるのみならず、薩・王・愛・喜の四菩薩は共に東方大圓鏡智(だいえんきょうち)菩提心門の尊にして体同義別なるが故に、結局本身は金剛薩埵なり、従って金剛薩埵の十七尊を眷属(けんぞく)とすることあり。

  5. また薩埵(金剛薩埵のこと)即大日の故にこの尊を直ちに大日如来とし、三十七尊を眷属とすることあり。あるいは瑜祇経の大勝金剛心瑜伽成就品第七に愛染王根本一字心明を説けるが故に、大勝金剛は愛染と同体なりとす。覚禅鈔には平等王・咤枳王等の異名を挙ぐれども本拠未審。

  6. 密号を離愛金剛といい、白寳口鈔に離は生死の業因を離れ、愛は菩提の妙果を愛する義にして、離染即愛染なりと釈せり。

『密教大辞典』より引用(※一部ひらがな・簡体字に改めています。一部送りがな・説明を捕捉しています。番号は筆者住職によります。)

 

改めて赤字にした部分を見てみましょう。

この尊は愛欲貪染をそのまま浄菩提心とする三昧にして

愛染明王の愛は

平たくいえば煩悩を指しており

愛染明王が司る

代表的な御教えは

煩悩即菩提というものです。

 

誰しも抱く煩悩は

本質的には穢れないものであるという

御教えが託されております。

 

ただし

この御教えは注意深く捉える必要があり

煩悩がそのまま尊いとしているわけではなく

“本質的に”という部分が大切ですし

仏道において煩悩がどのように捉えられているかを

前提として空(般若の思想)の視点に立って

煩悩即菩提であるとしなければなりません。

 

愛染明王は

むやみに祀ってはならないとされた尊格で

時代によっては特別な許可や

格式がなければ

お寺の本尊にすることが出来なかった尊格です。

 

それは

生半可に御教えを解釈すると

危険とされたからでもあります。

 

論理的に説明するのであれば

多くの説明事項があるので

ここではしませんが

愛染明王には

私たちの生き方を

強く後押ししてくれるような

メッセージが込められています。

 

真言宗で重要視される経典に

『般若理趣教』というお経があり

その教主は愛染明王ともされ

愛染明王に託された御教えに通じています。

 

『般若理趣教』は

法事や葬儀でよく唱えられるものですが

かつてはかなり修行を積んだ僧侶でなければ

扱うことが許されなかったお経です。

 

その理由は

先程と同様で

生半可な状態で取り扱うと

誤った解釈になりかねないためです。

 

そのため

拙僧も愛染明王や般若理趣教について

お伝えするにあたり

注意しながらご紹介したいと思います。

 

煩悩即菩提

という御教えが

代表的なものとして

託されているということを

今回のまとめとしまして

また次回につづけたいと思います。

 

つづく

 

 

 

普賢院本尊の愛染明王②

普賢院の本尊である

愛染明王について

何回かにわたっての紹介いたします。

 

そういえば修行時代に

お世話になった先生が

「住職は本尊のスポークスマンでもある」

とおっしゃられていました。

 

つまりは

本尊の代弁者ということです。

 

当山諸仏の中心として

祀られる本尊愛染明王について

本シリーズは

やや専門的な話題も交えつつ

進めていきたいと思います。

 

『密教大辞典』という

超専門的辞典があり

愛染明王の項冒頭に

以下のように記述されます。

 

  1. 梵語羅誐(らぎゃ)は彩色・赤色・情欲等の義なり、故にその愛欲染着(あいよくせんじゃく)の義を取りて愛染王または染愛王という。この尊は愛欲貪染をそのまま浄菩提心とする三昧にして、瑜祇経(ゆぎきょう、金剛峯楼閣一切瑜伽瑜祇経のこと)を本軌とす。(中略)衆生の本有倶生(ほんぬぐしょう)の欲染(よくせん)を直に浄菩提心の金剛薩埵(こんごうさった)の染愛三昧の化身とし、これを愛染明王とす。
  2. また金剛王秘密儀軌にこの尊の真言を説きて金剛王の真言とせり。王に鉤召(こうしょう)の徳ありて海内の民みな王に帰するが如く、愛染よく衆生を鉤召するが故に愛染王と名づけ、金剛王菩薩の化身とす。
  3. また菩薩の大悲は衆生を愛念したまうこと世間の恩愛の如く、この尊は敬愛の三昧にして、衆生をして仏の妙法を愛着せしめ、煩悩即菩提の理に入らしむ、これ金剛愛菩薩の化身なりとす。
  4. ただし金剛王菩薩とは、金剛薩埵の異名なるのみならず、薩・王・愛・喜の四菩薩は共に東方大圓鏡智(だいえんきょうち)菩提心門の尊にして体同義別なるが故に、結局本身は金剛薩埵なり、従って金剛薩埵の十七尊を眷属(けんぞく)とすることあり。
  5. また薩埵(金剛薩埵のこと)即大日の故にこの尊を直ちに大日如来とし、三十七尊を眷属とすることあり。あるいは瑜祇経の大勝金剛心瑜伽成就品第七に愛染王根本一字心明を説けるが故に、大勝金剛は愛染と同体なりとす。覚禅鈔には平等王・咤枳王等の異名を挙ぐれども本拠未審。
  6. 密号を離愛金剛といい、白寳口鈔に離は生死の業因を離れ、愛は菩提の妙果を愛する義にして、離染即愛染なりと釈せり。

『密教大辞典』より引用(※一部ひらがな・簡体字に改めています。一部送りがな・説明を捕捉しています。番号は筆者住職によります。)

 

冒頭部分のみの記述ですが

様々なことが踏まえられてのものゆえ

専門的で分かりにくいと思いますので

捕捉説明を加えつつ

少しずつ読み進めてまいりましょう。

 

まず愛染明王には

様々な名称があります。

 

引用には

羅誐(らぎゃ)、愛染王、染愛王

といった名称が見られます。

 

主要な尊格には

密号(みつごう)というお名前もあり

愛染明王は離愛金剛(りあいこんごう)が

その名となっています。

 

ちなみに

大日如来の密号は

遍照金剛(へんじょうこんごう)です。

 

真言宗では宗祖宝号として

南無大師遍照金剛と

お唱えすることが通例ですが

この遍照金剛は大日如来を指します。

 

これには理由がありまして

弘法大師が唐で入壇した

灌頂(かんじょう)という儀式の

投華得仏(とうけとくぶつ)という作法にて

両部曼荼羅ともに大日如来と結縁したため

弘法大師と大日如来(遍照金剛)が

ひとつの文言に連ねられています。

 

真言宗の本尊である大日如来は

「総体の仏」とされ

あらゆる尊格の本体は大日如来とされます。

 

あらゆる尊格の本体は大日如来とされますが

尊格と尊格の対応関係には

個別具体的に

伝統的に重んじられてきたものや

信仰されてきたものが多くあります。

 

引用文に見られる

愛染明王と同体とされる尊格は

大日如来、金剛薩埵、金剛王菩薩、

金剛愛菩薩、大勝金剛が

挙げられています。

 

このほかにも

愛染明王は不動明王と一体であるとされるなど

様々な関係性が伝えられます。

 

一見複雑な関係に見えますが

これらは修法における

趣旨の違いによっていたり

法流という系譜の違いによっていたり

阿闍梨の意図によっていたりと

色々なことに起因しています。

 

深い御教えが託されているがゆえに

さまざまな対応関係が説かれ

特徴的なお姿をされているといえます。

 

今回はここまでといたします。

つづく

 

普賢院本尊の愛染明王①

普賢院には多くの尊格(仏さま)が

お祀りされますが

当山においてそれら全てを統括するのは

本尊・愛染明王(あいぜんみょうおう)です。

 

本堂という名前は

本尊堂(ほんぞんどう)

または根本中堂(こんぽんちゅうどう)を

略したものとされますが

本尊が祀られる

お山の最も大切なお堂という意味があります。

 

愛染明王という御仏は

最極深秘(さいごくじんぴ)の仏とされ

時代によっては

認可なく本尊にすることが

出来なかった尊格です。

 

八戸で

愛染明王を本尊とする寺院は

普賢院のみです。

 

高野山金剛峯寺を

ご存知の方は多いと思いますが

金剛峯寺の寺号(じごう、お寺の名前の意)の

「金剛峯」という文言は

愛染明王が説かれる

『金剛峯楼閣一切瑜伽瑜祇経』という

お経に由来します。

 

インパクトあるお姿をしている

愛染明王ですが

とても深い御教えを宿した仏さまです。

 

本尊さまについて

これまでご紹介する機会が

なかったように思うので

歴史的なことにも触れながら

何回かに分けて

当山の愛染明王について

記してみたいと思います。

 

 

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