南祖坊伝説の諸相⑨ 来臨する南祖坊

当山は

南祖坊(なんそのぼう)という

僧侶が修行をしたと

伝えられるお寺です。

 

南祖坊とは

十和田山開祖とされ

十和田湖青龍大権現

(せいりゅうだいごんげん)

という十和田湖の龍神となった

とされる伝説の僧侶です。

 

『邦内郷村志』という書物の

十湾湖(十和田湖)の説明に

「又日」(またいわく)として

“南祖坊の来臨”について

紹介されております。

 

原文は漢文なので

意味を取りやすいように

書き下して引用し

それを意訳してみます。

 


【書き下し】

又日(またいわく)

永福寺に於いて

年々三月某日

御影供(みえく)今に至る。

 

南宗青龍神

道場に来格する

其の徴(しるし)

揭(かかげる)焉。

 

此の時に當たり

寺中厳(おごそ)かに

潔斎(けっさい)して

火を更(あらた)め

座を儲(もう)け

屏風(びょうぶ)を以て

其の四方を圍(かこ)み

卓を置き供物品々を備える。

 

香を炷(た)き

音聲(おんじょう)を禁じ

之を俟(ま)つ。

 

其の来去(らいこ)共

必ず風雨暴風發(おこ)る。

 

爰(ここ)を以て

其の時候を知ると云う。


【意訳】

永福寺では

弘法大師(3/21が“命日”)の

ご法事である

御影供(みえく)という法要が

今でも行われている。

 

南祖坊(青龍大権現)は

永福寺道場に来臨する時に

見られる“兆候”を

ここに掲げる。

 

南祖坊来臨に当たって

寺中の者は

精進潔斎を行い

灯明をあらため

座を用意し

その四方に屏風を立て

机に供物をはじめ設えを整える。

 

香を焚いて

音声を禁じて

南祖坊の来臨を待つ。

 

南祖坊が来臨する際も

お還りになる際も共に

必ず暴風雨となる。

 

暴風雨がおこることで

南祖坊が来たことを

承知すると言われる。


 

御影供(みえく)は

とても重要な法要で

弘法大師空海に捧げられます。

 

拙僧(副住職)は

真言宗豊山派の僧侶ですが

真言宗の僧籍を持つ

僧侶のことを

真言行者(しんごんぎょうじゃ)

ともいいます。

 

真言宗の僧侶は

行者ですので

修行ということを

とても重んじます。

 

修行すべきことは

究極的にはあらゆること

ということが出来るのですが

教相(きょうそう)

事相(じそう)という

両輪を深めることを

大切にいたします。

 

教相の修行とは

教学や教理などを

学び深めていくこと。

 

事相の修行とは

作法や法式などを

相承し体得し研鑽していくこと。

 

教相あっての事相であり

事相あっての教相なので

この両者は車の両輪に

喩えられます。

 

つまりはいずれもが

重要であるということです。

 

道場とは

そういった修行の場で

重要な場所なのです。

 

御影供(みえく)をはじめ

重要な儀式は様々ありますが

それらが厳修される場所も

道場といわれます。

 

尊い儀式には

それぞれの荘厳(しょうごん)や

設えが法式として

諸流伝えられておりますが

引用箇所に見られる

設えの簡単な記述についても

そういった作法に

紐づけた上で

具体的に再現出来るように思います。

 

また南祖坊の来去には

風雨暴風が必ず伴うと

記されております。

 

これは前回「伝説の諸相⑧」として

とりあげた南部利直公の伝説にも

見られるまさに諸相の一つです

https://fugenin643.com/blog/南祖坊伝説の諸相⑧/)。

 

今回引用した箇所だけでも

深めるべきことが多いのですが

その中でも真言宗における

具体的な儀式や作法との

結びつきが見られるという点は

伝説を考える上で

重要な意味を持つように思います。

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