開創当時を考える⑦

月法律師について

今回も深ぼっていきたいと思います。

 

十和田湖伝説の南祖法師(坊)の

師僧とされる月法師ですが

師が律師(戒律に精通した上人)で

あることに注目してきました。

 

戒律という言葉は

厳密には戒と律は

異なっており

戒は自律的・内的なもので

律は他律的なもので処罰を伴います。

 

原語を確認すると

戒は「シーラ」

律は「ヴィナーヤ」で

明確な区別があります。

 

ただし

中国や日本に伝わり展開するなかで

戒と律は混然としていき

「戒」の一文字のうちに

戒:シーラと律:ヴィナーヤが

含まれて捉えられるようになります。

 

このことは

例えば弘法大師の著作でも

はっきりと確認できます。

 

といっても

律:ヴィナーヤへの関心が

著しく低かったというわけではありません。

 

月法師をご縁として

戒律について

歴史的にも教理的にも

紐解いていった上で

南祖法師伝説と向き合うと

そこにも新たな見方による

物語像が浮かび上がります。

 

戒律という用語からは

規律や決まり事といったものが

連想されるかもしれませんが

戒律は行法と教理に密接に関わっており

さらには

戒律を伝える古い諸経典には

仏伝の説話が盛り込まれているのです。

 

そういったことを踏まえて

諸事考察していくことが

仏教的視点による姿勢と

一応は言えると考えます。

 

初代・圓鏡師について

取り上げた際にも触れましたが

古代の僧侶は

修行・修学を必須としており

出家(私度も含む)の動機として

何かしらの「悩み」が

多くの場合あったと考えられます。

 

「悩み」に関連していえば

8世紀以降の東北地方は

中央(律令国家)からの

移民政策や城柵が実施され

殊に桓武天皇の御代には

「軍事」政策に力が入れられ

戦時状態となった時期があり

そういった不穏な事態が

現実問題として現前していたことも

忘れてはなりません。

 

当山は

官寺としてではなく

“私寺”として

開創されているでしょうから

道俗(出家者・在家者・一般の方)が

相集うような

修行・修学・参拝の拠点として

よりどころとされたのだと考えています。

 

「律令国家」として

正式な手続きを経ての出家僧は

様々なことを期待されたわけですが

出家するための体制

特に戒律を授けられる環境が

整うに至るには

鑑真和上(688~763)の

来日・戒壇の設置を

待たねばなりませんでした。

 

古代日本において

出家者には様々なことが期待され

待遇も税金免除などの優遇措置が

取られていたため

その優遇措置欲しさに

出家するものも多かったようで

僧侶の質を高める目的もあり

出家制度を整備する必要に迫られ

戒律を授ける官立の戒壇が

設けられることになります。

 

出家動機としての

免税特許などの優遇の希求も

「悩み」からの解放を願った

とも捉えられますが

取り締まりをしなければ

ならない程の状況に

なっていたと推測します。

 

戒律にも種類がありますが

官僧として正式に出家するためには

具足戒(比丘250戒・比丘尼348戒)

の受戒が要件とされていました。

 

具足戒を授けるためには

三師七証という大役を全うできる

プロフェッショナルな僧侶10名が

必要だったため

優秀な僧侶を養成していくことも

戒壇設立には求められたのです。

 

具足戒と一言でいっても

典拠となる戒律の経典があり

中国・日本で広まったものの

代表は法護部(部派仏教のグループ名)の

『四分律』というものです。

 

ついでの話題となりますが

『四分律』よりも後に

成立した『説一切有部律』という

根本説一切有部という

かなり影響力のあった

部派の戒律について

空海は一目置かれており

真言僧侶が学ぶべき

戒律に関する典籍の多くに

有部律のものが挙げられています。

 

部派仏教に伝えられる戒律を

小乗戒と表現することもあり

起源前後から展開する大乗仏教でも

大乗戒が様々唱えられました。

 

大乗戒として

アジア全域で有名なのは

やはり『梵網経』を典拠とする

梵網戒といわれる

十重・四十八軽戒だと思います。

 

当山初代・圓鏡師

第2世・月法師

の時代においては

具足戒と大乗戒の

いずれも受戒していた祖師方が

多かったようです。

 

真言宗の戒律は

菩提心戒・三昧耶戒など

名称としては様々あるのですが

灌頂という儀式を通して

授けられるもので

説明を必要としますが

情報過多だと思うので

これ以上は触れないことにします。

 

月法師が

戒律に精通する律師であったため

具足戒や梵網戒といった

代表的なものを始め

各種戒律に通じていたと考えられます。

 

このことを加味して

次回もまた月法律師について

考察していきたいと思います。

 

つづく