このシリーズ
思いの外
好評いただいておりまして
楽しみにしてますとか
勉強になりますとか
おっしゃっていただけるのは
お世辞とはいえ
とてもありがたいのですが
気ままに書いているので
かたじけなく思います。
当山の歴史は長いので
時代ごとに
紹介したいことや
関連事項のお話は
ものすごく沢山なのですが
ブログで触れられるのは
そのうちの一部だけなので
記事内容はあくまでも
参考程度にご覧ください。
さて
「開創当時を考える」ここ何回かは
月法律師について
深ぼってきました。
法名が月法ではなく
月躰とする場合もありますが
これは南祖坊伝説を
伝える写本の中に
南祖坊の師僧が
月躰と表記されるものがあるからです。
なので月躰という名は
写本ベースのもので
当山の場合は
過去帳に依っております。
当山過去帳には
第二世として月法律師の
法名が明記されているのです。
この点については
巷で共有出来る情報からでは
把握出来ないことだと思うので
一応言及しておきます。
月法師が
戒律に精通した律師である点は
かなり大きな意味を持つことは
以前に述べた所です。
日本では多くの場合
戒という一語に
戒(シーラ)と律(ヴィナーヤ)が
含まれて捉えられています。
仏道修行において
戒は三学(戒・定・慧)の筆頭であり
仏道入門または修行入門において
不可欠なものです。
「初道」において
戒とともに重要視されるのが
菩提心(ぼだいしん)という尊い心です。
菩提心には
①悟りを求める心
②そもそも備わる尊い心
という意味があり
いずれもが大切なものであり
この菩提心の感得が
修行では目指されるといえます。
そして菩提心は
戒体(戒の本質)であり
様々な戒律は戒相(戒のあり方)
であると捉えます。
戒と聞くと
ルールとか禁止事項のニュアンスを
感じる方が多いと思いますが
具足戒はともかくとして
特に大乗仏教では
善業の意味合いが強いものが
“戒の日々の実践”とされます。
とりあえずここでは
本質としての菩提心
具体的な形としての戒
ということを
押さえていただければ結構です。
それでは
このことを踏まえて
「月法」という法名について
深ぼってまいりましょう。
空海が重用した経典『菩提心論』の
経文をいくつか
書き下して引用します。
- まさに普賢大菩提心に住すべし。一切衆生は本有の薩埵なれども、貪瞋癡の煩悩のために縛せ所るが故に、諸仏の大悲善巧智を以て、この甚深秘密瑜伽を説いて、修行者をして内心の中に於いて日月輪を観ぜしめ、此の観を作すに由って本心を照見するに、湛然として清浄なること猶し満月の光の虚空に遍じて分別しり所無が如し。
- 一切有情は悉く普賢之心を含せり。我れ自心を見るに形、月輪の如し。
- 凡人の心は合蓮華の如く、仏心は満月の如し。
1〜3には
観法修行の重要性と
自心の実際は菩提心であり
自心の形は月輪のごとくであり
仏心は満月(満月輪)のごとく
であることが述べられます。
これらは事相(修行)と
教相(教理教学など)が
伴って理解する必要がありますが
要するに
菩提心と月輪が
修行上でも教理上でも
不可分なものなのです。
月法律師の法名「月法」は
「月の法(みおしえ)」という意味なので
月輪と菩提心という
仏道修行の核に通じる意味を
読み取ることが出来ます。
写本に見られる異名「月躰」についても
躰は「本質」という意味なので
同様の意味を宿していると
捉えることが可能です。
空海の『声字実相義』や
『吽字義』に代表される
梵字の字相・字義による
法名の紐解きでは
さらに多様な意味に
接続出来るでしょうが
それにはここでは触れません。
月法律師の法名・律師の
意義を踏まえたうえで
南祖法師(坊)伝説を
再検討してみると
より仏教的&教導的なものが
浮かび上がってまいります。
寺院の縁起・由緒や伝説は
歴史とは似て非なるものであることは
当ブログを始めた当初から
何度も何度も記してきた所です。
拙僧泰峻は
仏道に本格的に入る以前
大学で人類学という学問を
専攻していました。
人類学にも様々な分野があり
中でも神話研究で有名な
“知の巨人”レヴィ=ストロースは
著書『構造人類学』(みすず書房、1972)で
次のように述べます。
むしろ、神話の研究はわれわれを矛盾した認識に導くのだということをみとめようではないか。神話の中では一切が起こりうる。見たところ、そこでは諸事件の継起はいかなる論理あるいは連続性の規則にも従わない。[同書:230]
レヴィ=ストロースは
いわゆる構造主義を
代表する人物として
有名な方ですが
ソシュールなどの流れをくむ
記号論を応用して
親族構造や神話の研究を
行なった方です。
構造主義は
ギリシャ哲学以来の
西洋哲学・思想に
挑戦した思想です。
レヴィ=ストロースは
ギリシャ以来の思想・哲学の
流れを汲んだ
実存主義の代表者サルトルと
同時代の学者で
構造主義の思想は
一世を風靡するものとして
注目されました。
西洋的価値観を基準に
あれこれ判断を下すことへの警鐘も
レヴィ=ストロースの
メッセージのひとつです。
レヴィ=ストロースの著書は
学生時代の拙僧には
あまりに難しすぎて
ほぼ理解不能だったのですが
おそらく人類学に触れた方に
共通した経験であろうと思います。
いま引用した文は
寺社縁起の類においても
重々踏まえるべきことだと
思います。
口承により保存・継承され
文字に起こされ保存・継承された
その「字面」と等置される意味だけでなく
「字面」へ保存作業する際に
働いた作用や法則や背景や
暗に込められたコードに
近づこうとすることが
一つの姿勢として
考えられるでしょう。
専門的になってきたので
この話題はこの辺で。
開創当時の社会状況を
考える一助として
何年か前に阿光坊遺跡を
訪れた際の動画を作成したので
以下に添付しておきます。
それに加え
圓鏡上人を含む
三開山上人についての
紹介動画も以前作成したので
以下に添付しておきます。
さらにさらに
昨年5月に行なった
開山忌(歴代先師のご法事)と
供養祭の動画も
関連動画として添付します。
以上
月法律師についての深掘りでした。